午前6時20分、遠くの塾に通う中川君(18歳、元無気力)が起きてきて、台所で朝食をとり、7時にはずっしりと重いお弁当を持って出かけます。いつも風のことを気にしているらしく、塾から帰ると開口一番、
「今日は吹いた?」「プレーニングした?」
とみんなに聞いていますが、先週末はいい風が吹いて自分も充分ウインドができたので、今は満足しているみたいです。『晴耕雨読』ではありませんが、勉強とウインド、とてもバランスがいいと思います。
中川君が出かける頃、他の生徒達は外に集合して体操です。堤防の前に並んで体操するのですが、5月の朝の海はキラキラ光り、漁船がたくさん浮かんでいます。時折、自転車の中学生達が通っていく、のどかな風景です。私も少しだけ体操に付き合ってから、部屋の中で一緒にヨガをやります。
ヨガの後、掃除をして朝食ですが、お味噌汁係の地平君(24歳、元無気力)は、今日もまたつっけんどんな様子。自分が正当に評価されていないと思っていて、いつも自分と周囲に腹を立てている…。と書くと、なにやら小説の主人公のようですが、現実となるとそんなにのんきに構えていられません。ご想像の通り、コーチに怒鳴られるハメになります。「もっと楽しくできるのになぁ」と、いつも思ってしまいます。
ところで、私が合宿所で生活し始めた頃、私の子供達が校長先生やコーチ達に叱られるのを見て、「さすがプロの叱り方!」とよく感心したものです。絶妙のタイミングで、バシッと決めてくれるのです。そんな風にして頂けると、私の方はとてもやりやすくなります。おっとり構えていられますから。そんな訳で、合宿所は大方の予想に反して、静かな所。常に罵声が飛んでいるような所ではありません。
さて朝食後、午前中はセールとボードの修理、そして艤装ということになりました。セールやボードは使用頻度が高いので、よく破れたり壊れたりしてしまい、その度にテープを張ったり、縫いつけたり、パテを埋め込んだり、削ったりと、様々な修繕作業を施します。
田口君(31歳、元引きこもり)は、腰を痛めた時からボード修理を手伝い始め、「えらく腕が上がった」と言われています。野島君(22歳、元無気力)も黙々とセール修理の針を動かし、とても丁寧な仕事をします。セール修理用の針は随分太く、家庭の裁縫箱にある物とはまるで異なり、とにかく力が要ります。今日は相原君(15歳、元無気力)が山口コーチのセール修理を言いつかりました。やっかいな破れ方でしたし、とにかくきれいに仕上げないといけませんから、しばし途方に暮れていました。
11時、セール修理を切り上げて、広場で艤装。相原君は9.0uの大きなセールを張りました。もう外は夏のよう。段々風もあがってきました。秋吉さん(中2、女、不登校)も、「今日こそ沖まで走りたい」と言っています。
昼食後、1時からいざ出艇。風はまた更に強くなっていますし、東から南東の風になり、サイドに流されやすくなっています。この風では秋吉さんもなかなか岸から離れることができません。どうしても、風に押し戻されてしまうのです。残念…。
相原君は、岸から沖へ何度か往復してからセールを張り替えました。地平君は、沖の方まで走って行き、とても楽しそう。歌まで歌っている様子。田口君も、「あ、ストラップに足、入ったんですよ」とうれしそうにしています。
沖の方は私にしてみれば大きな波(うねり?)でしたが、今日はボードが跳ねても飛ばされず、ウキウキ乗っていました。みんなとても遠くまで走って行くので、海上ではバラバラで、ほとんど1人で走っているような感覚です。
私はまぁ、様々な理由で、だいぶん泳いだり、潜ったり、海水を飲んだりしましたので、少し早めに終わりにしましたが、もう眠くなってしまいました。それでも空は青く、広場は花盛りで、夏休みのような気分でした。
4時半、道具を洗って片付けると、シャワーを浴びて、夕方の部が始まります。つまり、夕食の準備。今日は大量のコロッケ作りです。地平君は熱心に野菜を切っていますし、相原君はデリケートなコロッケを上手に揚げてくれました。野島君は付け合わせを盛り付けていますが、いつものように、とてもゆっくりです。相原君が、他の仕事もあるので「野島さん、頼むからもっと早くして下さいよ」と懇願していて、おかしくなってしまいます。
7時、夕食の始まり。そしてあっという間に終わります。
8時、今夜は山本コーチの指導のもと、「遊び」の時間です。山本コーチは日野晃先生のお弟子さんで、武道をなさっています。とてもきちんとして、頼りがいのある方で、今どきの若い方とはだいぶん異なります(若いのに)。道着姿は更に迫力があります。
さて、始めは『しり歩き新聞たたき合戦』です。足を伸ばして床に座り、お尻をつけながら移動し、新聞紙を丸めた棒で相手の頭を叩きます。叩かれたら、腕立て10回というルールです。
途中から山本コーチも加わり、みんなワーワー、キャーキャー大騒ぎ。紅一点の秋吉さんにも、誰も手加減しません。もちろん、彼女も負けてはいませんが…。彼女にとっては、周りは男の子ばかりですが、みんな変に女の子扱いしないので、かえって伸び伸びでき、兄妹のように振舞えるようです。
さて、いよいよ戦いは佳境に入り、新聞紙はボロボロ。みんな顔はほてり、息は弾み、目は爛々としています。こんなことは初めてですが、地平君まで大笑いしていますし、田口君に至っては、「ホッホー、ホッホー」と奇声をあげながら叩き回るので、みんなお腹がよじれるほど笑い転げました。とうとう私達は田口君を再発見したようです。
この後、タオルでの戦い、全員目隠しして一人を捕まえる、などして、9時半までたっぷり子供のように遊び、長い一日が終わりました。
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