2003年5月30日(金)    合宿所便り―その4―「台風接近」

今年は早くも台風が接近中との予報。昨日からずっと風が吹いていて、合宿所の前の海はきらめき、白波が立ち、旗がバタバタしています。

今日は布土(ふっと)という、近くの浜に移動して練習する予定なので、体操は省略して広場に行き、道具をトレーラーに積み込みます。トレーラーには、最大、ボードを10本ぐらい積めるラックが付いています。そこにセールや他の道具を積んで、車で牽引するのです。

朝食後、9時に集合すると、山口コーチから台風を迎える準備について指示があり、レスキュー艇を川に移動させることになりました。そうしないと、波に煽られ、流されてしまう可能性があるのです。これは"男の仕事"ですので、秋吉さん(中2、女、不登校)は私と外回りを片づけ、麦茶を作ってから、レスキューの作業を見に行きました。

水門の橋の上から見学していると、合宿所の"男衆"が、小杉コーチの指揮下、何本ものロープを引っ張ったり、ロープについた貝を削り取ったり、船から船へ乗り移ったりと、船乗りらしく働いています。私達のそばを、高校生の集団が通りかかりましたが、彼らと比べると、合宿所の生徒達は(コーチ達も)、みな色も浅黒く、とても逞しい。

地平君(24歳、元無気力)も昨日から少し表情が明るくなってきて、仕事を片づけるのも、みんなと会話するのも、どんどん自然になりつつあります。本当は、みんなと仲間になりたかったのでしょうか。でも、そのやり方がよく分からない、不器用だっただけなのかもしれません。

結局、レスキュー係留作業に1時間半ぐらいかかりました。その後も、浜のヨットを片づけたり、合宿所前の堤防の旗を降ろしたりと、お昼近くまで誰も文句を言わず、きつい仕事をやり終えました。このメンバーは、なかなか成長したのではないでしょうか。

昼食後、12時半に布土の浜に到着。いよいよ台風接近中の海でのウインドです。堤防の内側の公園で艤装して、ボードを運んでいると、浜から砂が飛んできて顔や腕にあたります。思わず「あっ」と言うと、口の中にも砂が入ってきます。これは、おしゃべりさんには効果的かもしれません。

風に押されてヨロヨロしながらボードとセールを運ぶと、もうよそのセーラーが沖の方を走っています。あっ、山口コーチが一番に出艇します。打ち寄せる白波をうまくさばき、波を越えて走り去りました。相原君(15歳、元無気力)、地平君、野島君(22歳、元無気力)は、波に押されながらも道具を押さえ、出艇するところ。みんな結構な波なのに、よく乗っています。

実際に走ってみると、岸で見るより波はずっと大きく感じられ、いざ目の前に迫ってくると、思わず叫んでしまいます。こんな調子で、落ちては波をかぶり、水を飲んでしまい、泳ぎ、と、悪戦苦闘のウインドです。ただ、野島君はこんな波と風の中を、いつもと同じペースでどんどん沖に走って行き、全く浜に帰りません。いつもはボーっとしているのに、いったいどうなっているの?「勇気あるなぁ」と、感心してしまいします。

しばらく乗るうち、みんな少しずつコツをつかみ、相原君も地平君も走っています。初心者の秋吉さんと田口君(31歳、元引きこもり)はセールをはずし、ボードに乗ってトレーニングしていましたが、何度か浜にボードを打ち上げてしまいました。波打ち際の波の力はとてもすごいのです。

3時半頃終わりましたが、みんな大変な思いをしながらも、充分楽しみました。
(そういえば、5日ぐらい前にも布土で練習しました。その日は大雨で、波ばかりで、ほとんどみんなやけくそでした。終わって片付けてから、ごく自然に水たまりで手や足を洗い、思わず顔まで洗いそうになってふと我に帰り、顔を見合わせて笑ってしまいました。)


合宿所に帰って食事の仕度をしていると、地平君はだいぶ自然に振舞えるようになっているのに、海上であんなに勇気のあった野島君は、まだ日常会話が苦手のよう。それでも少しずつ「日本語」がしゃべれるようになっています(ちなみに彼は生粋の日本人ですが…)。

食後は、昨日に引き続き、山本コーチ主催の"頭たたき遊び"の時間です。みんな新聞紙を筒状に丸めて、やる気満々。なんて元気な人達でしょう。そして戦いの火蓋がきって落とされるや、
「バカヤロー、痛えなあ!」
「ちくしょう!」「きたねえぞ!」
「バカ、やめろ、やめろ!」「危ねえじゃねえか!」
等々の恐ろしい言葉の連続…。バシッ、バシッという音が飛び交い、息を弾ませながら腕立て(罰ゲーム)をしたり、大笑いしたりと、大変な騒ぎです。

一緒に参戦している山本コーチも容赦なく叩かれ、いつも動作のゆっくりな田口君のすばやい動きに唖然としたり、秋吉さんにバシバシ叩かれる相原君の、「てめえ、覚えてろ!」に大笑いしたりと、観戦する方もお腹がよじれてしまいます。

こんな騒ぎを1時間半も続けた後、地平君は秋吉さん、田口君とガヤガヤおしゃべり。1階では相原君達がまだ戦い続けている様子。

みんなの興奮はなかなか収まらず、塾で遅くまで勉強してきた中川君(18歳、元無気力)の、「10時です」という冷静な声に、やっと消灯となったのでした。


※文中の生徒名は全て仮名です。

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