2004年2月11日(水)    合宿所便り NO.87「ウサギとカメ」

快晴の日が続き、洗濯物がよく乾きます。しかし、風はやんでしまい、海上訓練はなかなかできません。以前の低気圧の日々が懐かしく思えます。

今日は比地の大滝にハイキングです。
移動中の車窓から覗く景色。久々の晴天に照らされた海面は、水の蒼さが増し、水平線の彼方へと続きます。つい、その果てまで行ってみたい衝動に駆り立てられました。

そして現地に到着。大滝のある所までは、30分から45分間の山道を歩かなくてはなりません。
この山道は、本土の山中のイメージとは違い、ジャングルと言った方がいいでしょう。植物は原色が濃く、大きく、太く、猛暑に耐える為か、水分を多く含んでいます。だから、見た目と違って意外と全体的に柔らかいです。そして、台風にも耐えうる強さを持っています。
沖縄の強い陽射しが、その逞しい緑の光沢を一層引き立てています。私達は、この見慣れないジャングルの光景に、少し落ち着かない気分。

さて、大滝に到着しました。ほとんどの訓練生は、到着するなり「あぁぁしんどぉぉ(疲れた)」と、その場にへたれ込むだけで冷めてしまっています。10代の子も20代の子も、湧き上がってくる興味すらなく、言わば「子供らしさ」のかけらもありません。岩間から岩間へ飛び移ったり、駆け上ったり、清流一杯を両手にすくって顔を洗ったり、生き物を探したりしているのは私だけ。
と思いきや、私につられるように最年少の生徒1人がその大自然に興味をひかれ、高齢化(?)した同年代の生徒達をほうって、岩間を探検しだしました。

当スクールでは、定期的に"遊び"の授業も取り入れています。
「子供の頃、みんなでワーワー遊んだ事あるか?」と聞くと、ほとんどの者が「いいえ」。ある生徒などは「それに近いTVゲームをした事があります」と平然と応え、こちらは凍りつく思いがしました。
そう、「TVゲーム」と、「直接、生身と生身が触れ合う事」の判別も付かなくなっている…。だから理 屈ではなく、とにかく遊ばせます。体中を動かし、お腹を抱えて笑いながら…。この時ばかりは、コーチ達も訓練生と一緒になって遊びます。


この日の帰路、元気な訓練生3人が、「誰が1番早く、駐車している車まで辿りつけるか競争しよう」と言い出しました。それを聞き付け、「怪我人(私はただ今、足首を捻挫中)に負けたらスクワット(筋トレ)300回やぞ!」と、檄(げき)を飛ばすや否や、彼らは疾風の如く、私を置き去りに走り出ました。結果はどうなったか…。以下は、訓練生の日報です。

『生徒Aの日報』
「今日、山本コーチと山を下る時に、B君、C君、自分の3人で競争になり、山本コーチに「抜かされたらスクワット300回」と言われました。最初にC君が抜かされて、自分とB君がゴールという時に、トイレに行きました。自分がトイレから出たら、もう山本コーチが走って来て、やばいと思い、走ってギリギリ抜けました。これこそ本当の"ウサギとカメ"でした。何でも、油断するとダメだと思いました。これからは最後までやり通します」

『生徒Bの日報』
「今日の観光で滝へ行って昼ごはんを食べた後、帰りは山本コーチと走って競争しました。負けたらスクワット300回というペナルティがあったので、一生懸命、上ったり下ったりしました。後ろを見たら山本コーチがいなかったので安心してトイレに行ったら、その間に抜かれてしまって、とてもショックでした。その場でスクワット300回しました。もう足がフラフラでとても大変でした。最後まで走り抜いてから、トイレに行けばよかったなぁと後悔しています」

そう、「ウサギとカメ」の昔話は誰でも知っていますが、いざ自分達が(私も含め)体験する事になるとは、思いもよりませんでした。初めてここで、あれが昔から言い伝えられている戒めの物語なんだと実感し、時を越えて現代の自分達と繋がりました。これぞまさに実体験。実体験が少ないのです、私達は…。


※文中の生徒名は全て仮名です。

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