「ういんど」第20号

2003年3月1日発行




スクール復帰を果たして

校長代理 山口孝道

 10月30日、豊橋刑務所より満期出所しました。
 「塀の中ってどんな所?」と聞かれると、「"縮毛(ちぢれっけ)の高島田"のようなもの」と答えることにしている。ココロは、"結う(言う)にゆえない"というシャレである。シャレでも飛ばすより手のない、命令と服従の世界なのである。
 布団や衣類のたたみ方はおろか、歯ブラシ1本の置き方、場所までが規定される。規則という名の下に、日常動作の一つ一つが厳しく管理される、閉ざされた社会。
 一方、思いのほか文明化が進んでいて、舎房(居室)にはテレビも新聞もある。外の世界との大きな接点であり、数少ない娯楽のひとつでもある。故に、真剣に観る。読む。
 そして受刑者仲間でこんな会話が交わされる。
「オイ、新聞読んだか?」「ああ、ニュースでもやってたな」「この頃やたら人殺しだの、強盗だのが多いと思わないか?」「うん、…シャバは物騒だな」「ヤバイよな」「まったくだ。…恐ろしい所だよなぁ」
皮肉ではない。日本の社会は明らかに病み、何かが狂っている。

自らを省みない人たち

 先日、合宿所に児童相談所の立ち入り調査なるものが入った。脱走した訓練生の"虐待報告"に、押っ取り刀で駆けつけて来た大調査団の訪問である。虐待された可哀相な子供達を保護する正義の味方は鼻息も荒い。だが、期待に反し、虐待の事実も実体もなく空振りに終わる。茶番劇であった。
 非行仲間とシンナーを吸い、家出を繰り返す。注意する親には暴力をもって反抗し、欲しい物を手にするためには家財道具を片っ端から破壊する――これが、ありもしない虐待を訴えた2人の訓練生の実態である。
 大学病院、心理カウンセラー、各種の専門機関を渡り歩き、児童相談所に出向いた親もいる。その結果、戸塚ヨット入校なのだ。
 カウンセリング的手法が悪いとは言わない。だが、自分達の力の限界を知る謙虚さが欠けているのではないか。まさに、"自分がトキを告げるから太陽が昇ると思っている、愚かなニワトリ"に類する輩が多すぎると思う。

 『人、学ばざれば道を知らず』(論語)




着実に勉強しています

戸塚 宏

 皆様には変わらぬご支援を頂き、本当にありがとうございます。昨年は「早期釈放嘆願書」を出して頂いた事を知りました。一人で闘っているのではない、という思いは何より心強いものです。
 私の刑務所生活も10ヶ月が過ぎました。その間に山口コーチは既に出所し、ヨットスクールは以前と同様の活動ができております。その点、ご安心頂きたいと思います。
 私は現在、ミシンでカーカバーを作る作業をしております。5ヶ月が過ぎてもミシンは難しく、結構失敗もします。特に、布の長さを調節して辻褄を合わせるのが下手です。ヨットスクールを「世間」に合わせられなかったのも、こういう事かもしれないな、などと思ったりします。
 勉強時間はあります。ただ、困るのは本が10冊しか持てない事。たった10冊で何ができるでしょう。「教育刑」が聞いて呆れます。欲しい資料も手元に届くまでに2ヶ月。何を考えていたのかも忘れてしまいます。
 こんな中ですが、入所前に考えていた課題は遅れつつも着実にクリアーできています。「理性天動説」である欧米流の精神論を早く捨てなくては、教育正常化はありません。できるだけ早く、実践に取り掛かりたいと思っております。
 皆様の一層のご協力を、切にお願い申し上げます。


か ざ ぐ る ま

がむしゃらに走った7ヶ月

コーチ 小杉 信雄

 初めて戸塚ヨットと関わったのは今から20年数年前。私はまだ大学生で、当時あった「日曜スクール」の東京校で、アルバイトをしていました。
 それが、ある時急に、先輩コーチに本校合宿へとかり出されます。そして、いつの間にか本校コーチに…。
 しかし、「事件」が起きて留置所に入れられ、出てからは戸塚ヨットに近寄れなくなります。この頃、スクールはほぼ全てのコーチを奪われ、一時閉鎖に追い込まれていました。しかし、「スクールのためにも、自分のためにも、近寄ってはいけない」と弁護士からきつく言われていたのです。

2度と閉鎖させない

 それから13年。私は再びスクールに引き寄せられます。そして復帰してから7年後の平成14年3月、私を残して校長と他のコーチが収監されました。いつかその日が来ることを覚悟してはいましたが、「いよいよ来たか」という思いでした。
 「俺一人になっても(スクールは)やるから」。これが、収監前の山口コーチに言った言葉です。「2度とスクールを閉鎖にはさせない」――司法に対する唯一の抵抗、そして"意地"。その気持ちだけでした。
 しかし、1人では決してやり続けられた事ではありません。4名のコーチ(松木、岩間、榊原、横田)はむろんのこと、直接スクールへ駆けつけて下さった接骨医・松本先生ご夫妻、山口コーチの留守家庭を助けてくれた元コーチ・境野さん、夜の見張りをしてくれた三浦君、北海道から来てくれた卒業生・平澤君、支援する会・名古屋支部の柴田さん、校長の長女・内田ご夫妻、校長夫人、そして家内に、この場をお借りして厚く感謝の気持ちを伝えさせて頂きます。
 また、支援する会の方々のご尽力にも、深くお礼申し上げます。
 12月に入って山口コーチが正式に校長代理として復帰。無事に引き継ぐことができました。ほっとはしましたが、まだ闘いは終わりません。校長が戻ってくるまで、スクールを守り続けなければなりません。
 皆様には、今後とも、より一層のご支援をよろしくお願い致します。
(小杉コーチは山口コーチの収監中、現場のリーダーとしてスクールを支えました)

「何かが変わる」と信じて

東京都 K(34歳・訓練生)

 「自分を変えたい」一心で入校したヨットスクールでの生活も、もう9ヶ月になります。
 僕は自主的に入校したのですが、それまでは会社に勤めていて、仕事はまだしも人間関係がうまく行かず、かなり追い詰められていました。
 そんな時、戸塚校長の本を読み、多くの実績を持つスクールに強い興味を持ちました。色々考えた末に入校を決意しましたが、スポーツが苦手で体力に自信のない自分が、厳しい訓練について行けるのか?10歳も20歳も若い訓練生達と上手くやって行けるのか?など、不安はたくさんありました。
 しかし実際に入校してみると、素直でしっかりした生徒が多く、意外にも楽しい合宿生活となりました。
 体力的にはやはりきつくて、訓練後に疲れ果ててうずくまってしまうようなこともありました。が、今まで人とのコミュニケーションに飢えていたのがやっと満たされた感じで、精神的にはずっと楽になりました。

自問自答の中で

 でも、肝心の「脳幹トレーニング」の方はどうか?
 ここに来た目的は「自分を変えるため」であり、いつも孤立してばかりの情けない自分と決別するためでしたが、それはできているのか?今は楽しくやれていても、社会復帰したらすぐまた元に戻らないか?といった不安は常にあります。
 その一方、今までずっと一人ぼっちだった自分が、ものすごく濃い人間関係の中で生活し、コーチに怒鳴られたり、他の訓練生と衝突したり、毎日色々学び続けているのだから、劇的な変化はなくても、全く何も変わっていないはずもないのでは?と思ったりもします。
 とにかく、せっかく入校したんだ、何らかの結果を残せるようにしようと、日々の訓練に取り組んでいます。



自分

兵庫県 Y(15歳・元非行)

 僕は、卒業ということで、自分を振り返ってみると、これが僕なんだな〜と思います。あんまり意味が分かりませんね。
 まぁ、この3年間で、僕というのがある程度できたと思います。みんなも、この3年間で「自分」というのがある程度できたかと思います。
 僕の言う「自分」ができたというのは、例えば、物の考え方とか見方とか性格といった少し難しいことから、どういうものが好き・嫌いといった単純なものを、本人が自覚しているということです。
 僕が思うに、今はまだ基盤ができあがっただけだから、これから高校や大学へ行き、「自分」というのをもっと深く創っていこうと思います。
 高校や大学、中学校もそうだけど、勉強だけをしに行く所ではないと思います。勉強もあるけど、同世代の人と知り合い、色々な考えを持った人達と過ごすというのは、勉強では学べないモノがたくさんあると思います。そういった中から「自分」というモノを創れば、きっと良い人間がきると思います。
 ただ、完成させるのは不可能だと思います。誰しも、欠点というのはずっとあると思うからです。 これから「自分」を創っていき、社会に出て人の役に立てることをやっていきたいです。

(中学校の卒業文集より)


時はすべてを変える

東京事務所 横田 建文

 「戸塚ヨットスクール事件」から20年。道はまだなかばですが、状況は変化しつつあります。
 「事件当時、戸塚ヨットってなんてひどい所だろうと思っていました。まさか自分の子がお世話になるなんて…」と、最近、相談者から聞くようになりました。20年の歳月が現実を変えたのです。
 また、教育関係者から電子メールをもらうことが多くなりました。中学校や高校の先生です。教育委員会の委員からもメールが来ます。皆さん、戸塚ヨットに好意的です。これも様変わりです。職場で戸塚支持を公にできない雰囲気はまだ残っているようですが、それもいずれ変わるでしょう。少なくとも「戸塚=サディスト」の時代は終わりつつあります。
 ベルリンの壁が崩壊し、ソ連が無くなり、金正日が拉致事件を認めました。「あり得ない」と思われていたことも、変わる時はあっという間に変わって歴史が作られて行きます。
 戸塚校長が「教育再生の救世主」になる日も、必ずやってくるに違いありません。



○ 編 集 後 記 ○

▼スクールでは、ただ今コーチを募集中です。ご興味のある方はご連絡下さい。

▼校長の新著『教育再生!』が4月に出ます。私も校正のために何度か読みました。すごく読みやすく、分かりやすい本です。育児のバイブルとしての即効性もあると思います。小さな子供を持つ人達に、特に読んで頂きたいです。

▼ホームページの「スクール日記」、色々な方から「読んでいる」と聞きます。気恥ずかしいやら、うれしいやら。もちろん、色々とお叱りや注意を受けることもあります。その度、気をつけねばと手綱を締めることもしばしば。でも、このページはいわば合宿所のスナップ写真と考え、気軽にご覧頂きたいです。

(眞美)


 周昌院 住職・伊藤善重師の本が出ました。幼児の脳幹トレーニングや鈴木メソードなど、興味深い話題が満載です。

「子育て貯金箱」
(新風舎、¥1,000)
伊藤 善重 著
池川 明 解説

 武道家・日野晃氏が、師である初見良昭氏の驚嘆すべき達人の境地を紹介した新著。武道の深奥には日本文化が継承してきた最も優れた感性の存在が…。

「こころの象(かたち)」
(星雲社、¥1,700)
日野 晃 著